……? …
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


      



 俗な言い方をして、大富豪の一人娘という三木さんチの久蔵さんなので。妙な言い方になるが、誘拐されるという対象になり得る立場だという事実に不自然さはない。学園祭の後片付けでそりゃあドタバタとする、今日のこの日にと敢行したことへの不審はない訳じゃあないけれど。それにしたって、どさくさまぎれという格好で、無防備 且つ人目のないところを狙い、発覚を遅らせたかったというのなら、まま奇矯すぎるということもないのかも。

 “ただ…。”

 久蔵の今日本日の行動をつぶさに観察し、且つ、犯人一味へリアルタイムで報告する存在がいるはずだと。そこは、攫われた立場の七郎次にもピンと来ており。

 “だって、アタシが代理で通用口へ行ったのが偶然ならば、
  あの飯台を持って行こうとしたのが久蔵殿だったのも、
  ある意味で偶然なんですし。”

 講堂での斉唱のみが演目だった彼女らだったのが、OGの皆様がお見えになったのでと、それを歓待する手筈が急に持ち上がり。それでと用意されたのが、五郎兵衛謹製の、OGの間で評判のいい和菓子。誰かがそれを返すために、今日のお片付けの終盤には通用口へ向かう…と運ぶのは まま判る。だけれど、それが久蔵になるかどうかは まったくもって判らない。予測の不可能な、いわば不確定要素であり。もしかして別な子が返しに向かっていたら? 久蔵は別なところで呼び止められ、ピアノの鍵が何処かを示すために第2音楽室へ向かっただろうが、その代わりにと七郎次が通用口へ向かう運びには ならなんだはず。ただ、だからといって誰でもいいという無差別な誘拐とは思えない。

 『おい、本当にこの子で間違いないんだろうな?』
 『ここまでのお嬢様学校だぞ。
  そうそう何人も、キンキラキンの頭した生徒がいるかよ。』
 『そりゃあそうかも知れないが。』

  ―― 金髪で、コーラス部

 だから、この子で間違いないとの念押しをしていた彼らである以上、やはり標的は久蔵なのに違いなく。

 “誰か在校生へ、
  無理からにでも内通させていたんだろうなぁ。”

 きっと怖い脅しをかけられたのね、可哀想に。アタシへと言ったように、逆らうと殴るぞなんて物騒な文言で、ちょっとドスを利かせて怒鳴られるだけでも、叩かれたくらいの衝撃受けて震え上がっちゃうような、生粋のお嬢様が多い学校だもんね、と。車の振動に揺られつつ、ぼんやり思っていたものの。ハッとすると、いかんいかんと自分を叱咤。元気で気丈…だったつもりでも、昨日までの学園祭では相変わらずの働き者っぷりで奔走した身。そのラストを飾ったバンドセッションでの大活躍に加えて、そこはやはり…尋常ならざる事態に翻弄されたか、ちょっぴり疲れていたらしく。うっかりすると車内の暖かさのせいもあり、ついつい うとうとしちゃいそうで。

 “寝ちゃっちゃダメだったら。”

 きっとゴロさんが手を打ってくれている筈だし、直接には知らされていなくとも、久蔵殿やヘイさんだって 今頃は感づいていての気を揉んでいる筈だ。現状打破のため、アタシの方でも何かしなきゃあと、気持ちの集中を研ぎ直す。あの場で五郎兵衛が、彼へと殴り掛かって来た賊を薙ぎ倒していたのが見えたので、そいつらへの事情聴取で何か拾えているやも知れぬが、

 “どういうチームワークの人達なんだかが、掴みかねてるんだよね。”

 ドライバーは待機したままでいて、五郎兵衛に掴み掛かって行ったのが二人。自分へと掴み掛かって来た二人はそのまま戻っており。車内で待ってたのがもう一人いたから、今は都合4人というところだろうか。よほどに物慣れている玄人なのか、無駄口を利く者もないままに、車内はさっきからあまりに静かなもんで。

 “アタシへ何か訊くとか言い含めるって気配もないのが、
  助かりはするけど、目的が絞れないんだよねぇ。”

 極端な話、経営管理システム上の暗証番号を久蔵殿が知っていると思い込んでの誘拐とか、生徒の側では彼女のみが知っている、バレエ教室の公演へ向けてのスケジュールを調べて、招待客を狙撃したいテロリストへ情報を流したい連中だとか。

 “……そんな映画みたいな代物じゃあないか。”

 第一、遠回しにも限度がある。女子高生誘拐事件だってそうそう小さな扱いにはならぬのだ、こ〜んな派手な方法でそんなささやかな情報を得るというのは、あまりに効率が悪すぎるというもので。

 “……………う〜ん。”

 根が善人だからかな、相手の思惑が一向に思いつけないし、だったらどうしたらいいものかも、浮かばないのが困りもの。どっかで停まった隙を衝き、悲鳴を上げて逃げるというのが無難かな。そしたら聞きつけた人が追ってくれるだろうし、自分は逃げ切れずとも、何かあったかなって届けてくれるかも知れぬ。ああでも、この頃は触らぬ神に何とやらって風潮も強いのよね。殺人事件だと発覚してから、そういえば夜中に騒ぐ物音がしたなんて証言している人がいるけど、それって気がついてたのに駆けつけてないって事だしね……。

 “………………はっ☆”

 無音なのも手伝ってか、またぞろ眠気が襲って来たのへ、焦ったように うああっとかぶりを振れば。そんな自分の目の前の床部分へ、そっと置かれた何か…誰かの手が薄暗がりの中に見えた。

 “……?”

 そういえば、見張りなのか すぐ傍らに、最初に自分を脅した男がずっと居続けているのだが、

 “何だろな、時々気配がなくなるってのか。”

 こんな事態だってのにもかかわらず、七郎次がついつい眠ってしまいそうになるのも、静かだからというだけじゃあないのかも。この一味が玄人なんじゃあと思ったのだって、仲間をあっさりと見切って置き去りにしたところだけじゃなく、この見張り役の態度も大きに影響しておいで。何とも無駄がなく、しかもしかも当人の気配がまた、威嚇的でもなけりゃあ棘々しくもなく。何と言えばいいものか、あまりに落ち着き払っているがため、こちらもついつい うたた寝しかかるほどという恐ろしさ。

 “場慣れしてるから、かなぁ。”

 でも、それだったらこんな見張り役なんてのを受け持つだろうか。だって、

 「………っ。」

 前席にいるドライバーだろう男が、時々舌打ちしており。もう何度目かというそれなのへ、

 「どうしたんすか?」

 たまりかねたか、七郎次を担ぎ上げた内の一人が声をかける。随分と及び腰であり、どうやらドライバー氏がリーダーであるようだが、

 「通じねぇんだよ。さっきから圏外表示ばかりでな。」

 苛立たしい声音のお返事から察するに、運転しながら携帯電話を使っていたらしく。…っかしいなぁ、この辺てビルもないのになぁ。中継局が置かれてねぇ区域なのかなと、ややもすると言葉遣いが粗くなってる辺り、

 “大分 焦ってるみたいだな。”

 連絡する相手があるのか、そして そういう時間は厳守なものか。なのでの焦りようなのだろうなと、七郎次にもそのくらいは察しがついた。この辺りは確かに住宅街だから、繁華街やオフィス街ほどには徹底して中継アンテナもないかもだけれど。その分、商業用だの業務用だのという強力な電波も飛び交ってはないのだ。繋がりにくいなんて聞かないけどなぁと思いつつ、

 “……………あれ?”

 今のうちだと、自分の携帯をいよいよ発信状態にしておこうと構えた七郎次。ところが、制服のスカートのポケットに入れたはずが、

 “え?え?え? ホントにない?”

 最初に聞かされた、取り上げとけとかいう連中の会話のその通り、アタシったら、身につけて持って来てなかったんだろうか? いやいや そんな筈はない。今日みたいなバタバタしている日は、てんでに持ち場へ散らばっている皆なので。人探しのためならしょうがないということか、構内での使用、教員やシスターたちも大目に見てくれるのだもの。それに加えて七郎次は、剣道部の出店などで、あれこれと融通利かせて切り盛りしていた、スタッフ側の人間でもあったので。結構呼び出しも掛かりの、手筈を聞かれもしのと、今日だって既に頻繁に使ってもいたはずなのに?

 「???」

 何でそうなのか、そこまで舐められているものか。ガムテープ自体は堅くて剥がせぬが、それでも これじゃあ結構自由に動かせるぞという、体の“前”にて ひとまとめにされていた両手で。横たえられたまま、スカートの左右の脇をごそもそと確かめておれば、

 「………。」

 そんな自分の目の前で、先程とんと無造作に置かれた手がくるりと裏を向いたのだが、

 「〜〜〜っ。」

 危うく声を出し掛かったのをぐうと飲み込む。そこにあったのは自分の愛用の携帯で、しかも…ワンアクションでぱかりと開かれたもんだから、それへはさすがにギョッとしてしまい。再び、緊張から身を堅くした七郎次であったのだけれど。

  「………………………、?」

 ややあって。根気よくそのままになってた携帯の、液晶画面をそろ〜っと覗いた草野さんチのお嬢様。白いお顔に反射しているバックライトの明るさの中、青い双眸を見開いたままにしてしまったのはどうしてかと言うと…………。




      ◇◇◇


 今のところは警察への正式な報告もしてはなく、よって追跡や捜査に便利なツールや融通のあれもこれも、正々堂々、公明正大には使えないというハンデがあるはずだが、

 「…妙な電波はやっぱり該当車から出ているようですね。」

 警察無線や何やに混線するほど強力ではないが、何か飛び交っていないかという探査をしておれば引っ掛かる周波数のそれが、途切れぬままに発信されているらしく。

 【 通信系じゃないですね。
  会話変換でもないし、
  モールスや何やという規則性のある信号でもない。】

 と、これは、ハンズフリーで交信中の携帯から届いた、勘兵衛らサイドの顔触れ、平八が寄越した見解で。あちらへも同じマップを転送したところ、こういったネット操作はおてのものだというひなげしさんが、そちらでも解析を進めているらしく。腕のほどはどちらかといや向こうが上だろなと見越した佐伯刑事、そろそろ車自体が見えて来そうなほどの距離を詰めていることもあり、解析画面からは視線を外しての進行方向へと集中を切り替える。

 「高架下へ入ってくようですね。」

 ところどこで少々無理をして飛ばしたこちらと違い、向こうは逃げ果せるまで、取り締まりを受ける訳にもいかなんだに違いなく。そんな差異にて何とか詰められた距離が今やっと、手が届くかもというここまで縮められたものの。

 “一体どうするつもりなんだろうか。”

 いまだニュースでも扱われていないことから、追っ手がかかっていないものと確認出来たなら、一気に高跳びでもするつもりか。だが、人命尊重を考えて、報道管制が敷かれようことは相手にも判っているのではないだろか。

 “何せ、三木財閥の令嬢を拉致しようって企みなんだしな。”

 こうまでの頭数を揃えの、流動的な情報をなのに綿密に詰めのという、恐ろしいほどの周到さからして。素人の思いつき、身代金がたんと取れればなんてな、簡単なレベルのものじゃあないのかも?

  ―― 世界的な財閥も要人も利用する、ホテルJを牛耳りたいのだろか

 恒久的に縛って資金源にするつもりか、それとも一時的に支配をし、何かしら利用するつもりでいるものか。どっちにしたって影響力が大きすぎて、

 “どえらいことへと利用されかねん、か。”

 まま、そんな先の野望じみたところまで想像を膨らませる必要はない。用心の下敷きにと敵の規模の想定は必要なれど、何事も起こらぬようにしたいなら、攫われた彼女を取り戻せばいいだけの話。それでなくとも攫ってく対象を取り違えている連中で。そうであることが発覚したらば、七郎次の身もまた危うい。こうなりゃ誰でもいいさと開き直って、彼女を人質に三木家への働きかけへと相手の方針が流れればいいが。警戒された末にとんでもないことになったらば……。

 “そんな下らん理由で七郎次を失うことにでもなったらば…。”

 あの、職務へは辣腕なくせに、自分の身の振りようへは要領が悪い勘兵衛を、どれほどのこと哀しませる結果になることか。毎度毎度、危ないことへ首を突っ込むお嬢様たちは、そこのところが判っているんだろうか、まったくと。大人たちとお嬢様サイドの温度差へ、彼もまた部外者とは言い切れぬ立場だからか、あらためての溜息をついておれば、

 「……………お。」

 マップの上どころか、目視でそれと判るほどに、該当車両が間近になっている。そこで車を乗り換えでもするものか、幹線道路からはやや外れた高速道路の高架下へ進み入るボックスカーであり。五郎兵衛が証言し、写メを転送してもらったそのままの後ろ姿なのへと息を飲む。ナンバープレートも確認した上で、

 「勘兵衛様…、」

 目視圏内に入ったことへの報告と、これからの捕獲行動への打ち合わせをと、こちらから話しかけんとしたその矢先、


   「……………………え?」


 その視野へと飛び込んで来た情景へ、すっかり意識を奪われてしまった佐伯刑事であったりし。それもそのはずで、想像だにしなかった様相がいきなり繰り広げられたものだから。何なに? 何だなんだ?と、ほんの刹那のこととはいえ、把握への刻間が要った彼であり。

 「…………あれって。」
 【 あれってって、何ですか? どうされましたか、佐伯さんっ。】

 思わず口をついていた言いようへ、当然のことながら情報がそんな彼の声しかないという、追っ手第二陣営の電話番・平八が、随分と怪訝そうなお声で聞き返して来たけれど。それへと応じる余裕もないものか、体が動き出すまま、車外へ飛び出していた征樹殿。そんな彼のいる側へ向かって一目散に駆けて来たのが、濃色ひだスカートをひるがえしてのストライドもなかなかに優雅な、セーラー服姿の七郎次とそれから………。 





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  *説明文と思わせ振りばっかの章ですいません。
   勘のいい方なら、
   何とはなく気づいてることも、
   既にたんとお有りかも知れないですが…。


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